社名変更9回!激動のカーチス

筆者が所属していたジャック(現カーチス)は、約10年の間に敵対的買収も含め5回の買収がなされ、その内の買収した4社がいずれも経営破綻するという上場企業としては極めて稀な経歴を持つ。しかも、創業者を含むトップが4人も逮捕された。

また、下記のように創業以来9回もの社名変更をしており、上場企業としては最多を誇るとのこと。(名誉なことでは無いと思われるが)その度に社員は振り回され、雑務に追われていた。

※直近の2024年9月社名変更時期は予定

筆者が入社した当時は情報商社という触れ込みで、ベンチャーとして新進気鋭の企業で勢いがあり同期入社も約120名ほどいたが、経営陣が目まぐるしく変わる中で、筆者の退職時には同期は4人にまで減少していた。

ビッグモーターの一連の不正事件で退職者が増加しているという話があるが、過去のカーチスの比ではないと感じる。それくらいカーチス社員の入れ替わりは激しかった。

良い悪いは別としてこれだけの事件があった会社はそうはなく、備忘的な面も含めて筆者が勤務していた期間の中で特に大きな事件を下記に追っていきたい。

2001年6月 渡辺登会長逮捕

創業者である渡辺登会長が業務上横領で逮捕される。

当時入社して日が浅く末端の社員であった私は、会長の姿を見たこともなく実感は全く無かった。

横領額は100億円以上ということで、社会のなんたるかもわからない私には想像もつかない金額だった。

会長逮捕により役員の多くは入れ替わり幹部社員の退職はかなりあったようだが、中古車の販売や買取を行っていた現場は特段の影響なく日々の業務に忙殺されていた。

当時の販売店は夜10時まで普通に営業しており、朝も早くとにかく忙しかった。その前は夜中の4時まで営業していたということで、先輩方はほとんど寝ずに仕事をしていたという。。今では考えられない勤務形態だった。この頃をブラックと言わずしてなんというのだろうか。

2005年9月 ライブドアによる買収

当時の大株主が株を売却するという意向に名乗りを上げたのが、堀江貴文氏率いるライブドアだった。株価は急騰し100億円超えの資金も入ってきたことで社員は浮足立っていたように思う。2006年1月には「ライブドアオート」と社名変更し、堀江氏が出演するCMも流れるなど世間での知名度も一気に上がった。

ライブドアからライブドアオートの社長として送り込まれた羽田社長はカリスマ性があり、一般の社員にも気さくに声を掛けてくれたりと、人気も高く、業績が低迷していた会社が一気に変わる様相を呈していた。

2006年1月 ライブドアショック堀江氏逮捕

1月1日に社名変更し、知名度も上がりかけ滑り出し好調かと思われていた矢先の1月16日にライブドアの堀江社長が証券取引法違反容疑で逮捕されるという急転直下の出来事が発生。

当時私は小模店舗の店長であったが、このニュースを機にすでに契約済の顧客から突如キャンセルされたり、クレームの電話が入るなど、今までにない対応に追われていた。

2006年8月 カーチスに社名変更

ライブドアショックの影響もだいぶおさまっていたものの、ライブドアの名前が入った社名は流石に印象が悪いということで、新たに「カーチス」という名前に社名が変更された。

「car(車)」と「arch(橋)」をかけた造語であるという説明だったが当初はなかなか馴染めず、元の「ジャック」のほうが良いと多くの人思っていた。

2007年1月 ソリッドアコースティック買収

ライブドアショックに伴い、ライブドアが保有する当社株式を売却するにあたり、買収に名乗りを上げたのは「ソリッドアコースティック」という音響関連事業を手掛ける会社だった。

「ソリッドアコースティック」はヤマハの創業家一族が立ち上げた会社であり、今度こそ会社が良くなるかと社員は思っていたが、この買収は「ソリッドアコースティック」と「リーマンブラザーズ証券」がカーチスの保有する高額のキャッシュに目を付けた、資金奪取買収であった。

実際、買収してすぐの1月12日にはカーチスの保有する120億円を親会社となった「ソリッドアコースティック」に担保提供する決議がされている。そしてその後は「ソリッドアコースティック」が借り入れしていた「リーマンブラザーズ」に渡ることになり、カーチスの株も「リーマンブラザーズ」に渡ることになる。その結果、2007年3月期決算では、カーチスは178億円もの経常損失を計上することになる。その時の売上は365億円であったため驚愕の赤字である。

当時は何が起こっていたのかさっぱりわからなかったが、後になって知ってみるととんでもない話だ。元々「ソリッドアコースティック」は中古車販売にはなんのシナジーも無く、最初からカーチスの資金を奪い取る目的だったのだ。

CMS(キャッシュマネジメントシステム)という手法を巧妙に用い裏で絵をかいていたのは「リーマンブラーズ」であり、外資系証券はやることがえぐすぎる。120億円もの資金を持っていかれたカーチスは訴訟を起こし、その後数年にわたり係争を続けるが、「ソリッドアコースティック」の破産もあり、結局戻ってくることは無かった。

今になって思えば、当時100億円を超える資金がライブドアから入ってきた時点で、店舗改装やIT、広告等に積極的に投資を行っていたら、大きく変わっていたかもしれない。

 

2007年12月 ケンエンタープライズによる買収

親会社「ソリッドアコースティック」の経営悪化に伴い、カーチスの株を実質的に保有していたリーマンブラザーズが株を売り出し、買収に名乗りを上げたのが、大島健伸氏率いる貸金業を行う「SFCG」(旧商工ファンド)であった。

「ソリッドアコースティック」の買収で散々な目にあった経営陣は、またまたシナジーが特に感じられない別業種「SFCG」からの買収に猛反発し、全社員から反対署名を集めるなど抵抗を重ねたが、抗えず買収は成功した。当時末端の一社員の私も署名したがなんら意味は無かった。この買収は当時上場企業としては敵対的な買収の成功例として第一号となった。

「SFCG」の会長である大島健伸会長はカーチスの経営にも積極的に入り、幹部達に矢継ぎ早に指示を出していた。ライブドアの羽田社長とは違ったカリスマ性というか、とにかく喜怒哀楽が激しく、予算の数字に到達していないと幹部を怒鳴り散らしていた。

数字に対する進捗の追い方はすさまじく、一代で巨大企業を創出したオーラというか凄みを纏っていた。SFCGの人から話を聞くと、私は見ることが無かったが「背負い投げ」や「飛び蹴り」もよく幹部は喰らっていたという。。実際、空手の有段者という話も聞いた。

「豆腐の角に頭をぶつけて死ね!」とか「そうめんで首吊れ!」とか罵声を浴びせられていたが、幹部間の飲み会では面白おかしく言われていたのが、なんだか滑稽ではあった。

カーチスの現場としては、会長の指示により不採算店舗が次々閉鎖されるなど混乱が続き売上も減少していった。

対して、SFCGの社員は優しい社員が多かった。よく飲みにも連れて行ってもらい、会長の武勇伝(?)などの話で盛り上がった。SFCGの社員は良く働き、いつも早朝から深夜まで会社で作業をしていた。そのため、我々も同様の勤務形態を強いられていた。

 

2009年2月 SFCG経営破綻~日本振興銀行による買収

大島会長のもと、連日長時間労働に勤しんでいた最中、突如SFCG経営破綻のニュースが飛び込んでくる。ライブドア、ソリッドアコースティックと親会社の経営破綻を経験してきてきた社員からは、またか!という思いであった。

SFCGの経営破綻は当時ニュースでも大きく扱われ、日本橋NBFセンタービル本社前にはテレビ局も散見されていた。

SFCG経営破綻に伴い、買収に名乗りを上げたのが、日本銀行出身で金融コンサルタントの木村剛氏率いる日本振興銀行であった。木村剛氏は日本振興銀行による融資を契機に、経営難に陥っていた中小企業を次々と買収し振興銀行ネットワークという一大グループを形成していた。

木村剛氏による振興銀行ネットワーク構想は壮大なものであり、いずれはメガバンク規模にまで拡大するとの話には、社員一同驚いたが過去の買収劇に振り回されてきた社員は懐疑的な目で見ていた。

カーチスも振興銀行ネットワーク一員としてグループ入りし、他の振興銀行ネットワーク企業とのシナジーを模索する日々となった。ただ、経営難に陥っていた企業同士ということもあり、また完全な異業種のシナジーということで大きな成果が出た協業は無かった。

 

2010年9月 日本振興銀行破綻

日本振興銀行傘下で振興銀行ネットワークと協業しながら、再建を図っていたカーチスだが、今度はなんと日本振興銀行が破綻してしまった。まさか銀行が破綻するなんて。。と思ったが、ほかの社員はまたか。。という感じで大きな混乱は無かった。

日本振興銀行が保有していたカーチスの株式はその前に手放されており、ようやくカーチスのプロパー経営陣により経営が進められていった。

SFCG時代に不採算店舗を大幅に削減した効果もあり、徐々に利益が出はじめ2010年度の決算では約11億円の利益を出すまで回復した。

 

2012年9月 KABホールディングスによる買収

カーチスのプロパー経営陣により順調に再建を進めていた最中、今度は美容健康商品製造・販売を手掛けるレダによる株式取得がなされ、レダの創業者である加畑雅之氏が会長となり、経営に参画することになる。

加畑会長も大島会長とはタイプは異なるが、猛烈に数字を追う劇場型支配経営者であり、数字の進捗が予算通りに進んでいないと容赦なく幹部を叱責していた。自身も公言しているが、猛烈に働くことを信条とし、土日もなく本当に365日に働くような経営者であった。

会長は政財界等に顔が広く国外にも人脈を有することから、直近では海外企業との協業により、各種提携を進め売り上げ拡大を模索している。

 

終わりに

これだけ見てくると、よくまあ色々な事件というか悲劇があったなと改めて思う。ただ、買収した会社(トップ含)はソリッドアコースティック以外、本気でカーチスの業績を伸ばそうとしていた。

経営者も個性的で色々学ばせてもらったとともに、貴重な体験をさせてもらった。

給料も個人的にはそんなに不満は無かった。

カーチスの社員は良い人が多く職場の人間関係は悪くなかった。手前味噌かもしれないが、営業の接客姿勢は他社よりも良かったと思う。

カーチスは創業~10年くらいまでは業界を引っ張ってきた存在であり、近年は競合のガリバーやネクステージに水を開けられているが、過去の勢いを取り戻し復権してもらいたい。